さぁ、口付けを/杉山 さち
恋の終りはいつも突然で女に追い縋る男を横目に僕は歩き出した
恋の終りと始まりが重なる事はそう珍しくは無く
世の中の恋の大半はそうやって終末を迎えているだろう
新しい男の元へと向かう女の背はなんと潔い事か凛々しい事か
いっそ清々しさすら覚える
その女に追い縋る男の顔は苦渋に満ち満ちている
「これからは悪い所直すから」
「今までごめん」
「俺を見捨てるの?」
数々の言葉は女を引き止める力を持たず女は振り返る事すらしない
泣き濡れた男の顔はその辺の女よりも随分と女々しかった
ふと、女は振り返る
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