咲水/木立 悟
高い壁をかじる
音だけの生きもの
雨に沿う指
つまびく素顔
かがやく花
かがやく花
光さみしい午後の足跡
雨のまぶしさに左目を閉じる
右目を泳ぐ一人称の影の群れ
曇を見つめるまばたきのなか
ひらめく花
ひらめく花
消えることと
消えないことの
あいだにひらく水の手に
壁のかけらは降りそそぎ
水紋に変わり 浮き沈む
凝視と微笑のあいだを覆う
銀に荒んだ布地の光
曲がり角を呼ぶ曲がり角
行方の知れない曲がり角
雨を歪ませ たたずむ生きもの
崩れかけた壁の向こうに
かけらでできた道がひろがる
見える水紋
見えない水紋をつらぬいて
水の手首に立ちつくす
雨の火の羽 連なる曇へと
かがやく花
かがやく花
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