出会った人々についての話/吉田ぐんじょう
 
えるような状態にある人に会った
と言うべきだろうけれど

その人とすれ違った瞬間
網膜の四隅から白い泡じみたものが浮かび上がり
町は一瞬にして
美しい海底となった
電柱は海草のようにそびえ立って揺らぎ
走る車は無愛想な鮫のようで
その中を悠然と歩くその人は
きれいな貝のように見えた

無理やり殻を砕いて食べてしまったら
やはり怒られるだろうか
その人が行ってしまったあと
途端に元に戻ってしまった町で
立ちすくんだまま
わたしはずいぶん思案していた



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