忘れ物/霜天
僕等は思いがけず忘れ物をしてしまう
それはひとつふたつ みっつよっつと
歩く振動でぽろぽろと零れて
最後には僕もぽろりと
なんて
雑踏の中で落としたものは
あちこちから持ち寄られた音に紛れて
探すほどに見つからなくなる
音は大きくなるばかりだから
街角で
零れていく音がする
もう僕からなのか誰かからなのかわからない
どうせ雑踏に紛れてしまえば
忘れるしかないのだから
ぽろぽろと音がする
なぜか大きく響く
何が零れているのかさえ
もう忘れてしまった
どれだけの忘れ物をしてきたのだろう
遺失物は交番には届かない
せめて
僕はあなたを
ぽろりと零さないように
愛について
つぶやく
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