座ってるだけの椅子/カンチェルスキス
 
わたしの体温が残ってるのもわずかのうち
わたしはまだ生まれていない
なのに何もかもいちいち記憶に残るのはなぜか?
例えば、ケンタッキーのフライドチキンの衣の感触、
風の吹き通しよい図書館の前での浮浪者たちの宴会、嬌声、
スーパーマーケットのレジでの○○カードはお持ちですか?という質問、
例えば、下着泥棒に入る前の泥棒の心境、
傘を忘れて突然の長雨に濡れるにまかせた二の腕、
わたしは光る、光ってもなお、尾を引く羽根を抜かれた孔雀が、
わたしの前をただ通り過ぎる、渇水のダムの底のひび割れにも似て
座ってるだけの椅子、わたしは手に入れた
そしてわたしはそれを壊したのだ、人間の四肢にも似たその椅子が、
わたしはちゃんと破壊されてるように見えたのだ、
わたしはだしぬけに、ラジオ体操第二をやってのけたのだ、
気持ちよすぎて、あくびが出た。
あくびが出たのはどういうわけか。
わたしはまだ生まれてないというのに。






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