小鳥の巣/千月 話子
レーン車に吊るされた
丸い鋼鉄の上には
幻のように白いカラスが止まっていて
大きく揺れる一撃の前に
高く 高く 鳴くのだろう
そうして
隙間だらけのアパートから
最後の住民達が一斉に舞い上がり
色鮮やかなひと塊となって
新しい巣を探し飛び立って行くのだ
夢見るみなみの部屋の薄いカーテン越しに
大きな鳥の影が横切る
「みなみ みなみ」優しく呼ぶ声がする
四角い鳥かご 狭すぎてまだ巣は作らない
私達の自由 私達の美しい羽を風に晒して
明日 この部屋は空っぽになる
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