夕立の語源/Rin K
 


切符を握った手が濡れてきたから
てのひらを上に向けて解放してやった
そうしたら切符は川になって
行き先はすっかり見えなくなっていた

川は
僕だけが感じる速度で流れ
薬指、から滝のように
こぼれて ただ、声もなく落ちて
買ったばかりのブーツのつま先に
たったひとりだけのみずたまりが で きた

また、コスモスが咲く

乗っていた電車の終点が
いつの間にか現在地になって
僕は、幸せを語ることよりも
雨の音が好きだという君と
車窓に残った流星の
帯状キセキを辿りながら
午後の陽射しに揺れて、まどろむ
夕立の語源は、いまだに知らない

深い擦り傷がふたつ
ブーツのつま先に
水の花が咲いたね、と
君はささやく きっと
その花は、君にしか見えない
今ではその瞳だけが
見えないものを捉えて澄んでゆく



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