ヘラクレスの遺書/シャッターコーン
鞄の中に 一匹のカブトムシが蠢いていた
しかもヘラクレスだ
数日前は ぶよぶよとした白い固まりだったのに
いつのまに そんな立派な角を得たのだろう
窓から 彼を外に放した
少し黄色がかった羽根を広げ
彼は大空へ還るかのように この部屋から飛び立った
…かに見えた
すぐに彼は放物線を描き 地面へと墜ちて行った
降り立つべき場所を見つけたのだろうか
それとも マニアの罠にかかってしまったのだろうか
いや…確かに彼は、墜ちて行った
自ら、
都会の喧騒が、
横たわる只中へと、
次の日 鞄の中に 白い一通の封筒が入っていた
表書きには 草書体で『遺書』
中には 一枚のわくら葉
少し かじった跡が あった
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