遅れてきた少年の一切合財(その2)/生田 稔
 

キリスト処刑にいたる有様を
最後の伝道のつもりで
残っていた百冊ぐらいの
伝道用の雑誌を携え
大阪環状線玉造駅の前の
小さい広場にむかう
途中タバコ屋で仁丹を買う
もつ薬として葡萄酒に混ぜるため
つぎに酒店で葡萄酒を買う
最上の赤ぶどう酒で甘みのつけてないのをと言うと
これ一本だけありますと店主は言い
やや大きめのビンに入ったのを渡した


玉造駅のちっとした広場
人どおりは多い、雑誌を手渡す
殆んどの人が受け取った、たちまち無くなる
もって来たぶどう酒を駅の隅の
どぶの中へ注ぐ、ビンから酒がバツバツと
泡をたてて勢いよくこぼれ
あたりに芳しい香が漂う
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