バスタブ/暗闇れもん
病院跡に置かれた一つのバスタブ
沢山の薬品のにおいだけで溶け出しそうになる体
できる限りゆっくりとバスタブに体を沈めること
それがこの小さな紙切れに書かれた最後の指令で
わたしがその約束を果たせば
約束どおりあなたは
天井から吊り下げられた鳥籠から救われるだろう
口が思うように開かず
うなるように何かを叫び
口元のボールから絶え間なく流す液体が
籠を見上げたわたしの頬に触れる
目だけは自由のあなたに
見せ付けるようにして最後の靴下を脱いだ
つま先が少しバスタブの液体に触れる
誰の痛み
音を出さず
視線だけあなたと繋がり溶けていく
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