赤いうわばきとたいくかん/吉田ぐんじょう
老朽化の進んだ体育館は
二階に観客席が付いていて
死んだ蛾や蝉がたくさん落ちていた
わたしは
つま先の赤いうわばきで
それらの死骸を踏み砕き
空へ近づこうとするかのように
一人でそこへのぼることを好んだ
埃だらけの青い椅子を倒すと
座面にはファックとかラブとか相合傘とか
そういう文字が
釘で引っかいたような感じで
うすく刻まれている
わたしはかすかに頬を上気させ
そういう落書きをひとつずつ読んでいく
世界がおわってもあいしてる
ちょーらぶらぶ
二組のあいつぶっころす
その中にひとつだけ
捨てないで下さい
という落書きがあることを
わたしは知って
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