うめぼしの秘密/恋月 ぴの
 
良くできたうめぼしは
故郷の懐かしい味がする

すっぱさのなかから
忘れかけていたものが顔をのぞかせて
こんなんだったよね
と問いかけてくれるような

ほどよく皺くちゃで
秋アカネのような色合いを
白いご飯の上に乗せれば鮮やかに輝く

うめぼしばあさんって
もしかすると褒め言葉だったのかな
歳を重ねるごとに円熟味を増して

意固地なところあるにしても
皺くちゃの内側には
あの頃の情熱がしっかりと詰まっている

酸いも甘いも噛み分けているからねぇ
だなんて
ちゃちゃのひとつも入れようものなら
「何いってんだい!伊達に生きちゃぁいないよ」
そんな言葉がぴしっと返ってきそう

すっぱさを味わった後のうめぼしの種
食べちゃうひともいるんだよね

もしかするとこのなかにこそ本音が隠れているのかな

どこか適当なところには捨てられなくなって
庭先のひめしゃらの木のしたに
うめぼしの秘密
ごちそうさまと埋めてあげた


戻る   Point(42)