蜩/おるふぇ
 
ぼくは
命を惜しんでいる
まだ
愛していないものが
視界の端々や
夢の隅々に
在るから

小さな約束をして
鳴いて亡くす蜩の生涯
たった一匹の虫の声よりも
気高い歌を
ぼくは
未だ唄っていないんだ

あなたに届くような声で
やさしいつもりでしたためた
あの夜の詩を
何度
読み返してみても
きっとずっと
足りずにいるままだと思うんだ

雄弁に語る沈黙の涙の色よりも
美しく鮮やかな悲しみを
ぼくは
知らない

儚いものを儚いと言う瞬間の
あなたの世界は
ぼくの世界に
今も
生き続けている

それは深く
ずっと深く
濃度を更に増して
ずっと焦がしていく
その匂いは
ぼくの生涯の傍らに
息づいていく


聞こえますか?
蜩の声
昨日までの夏は
彩を変えて
あなたを
連れていくでしょう
ぼくと
違う夢を見ていても
戻る   Point(4)