百日紅/肥前の詩人
百日紅
こうず まさみ
激しい色ではない
長梅雨の間に
そうっと 音もなく 開いた花
枝先のピンク色が
爽やかな 風になびいている
バックコーラスの 緑に混じって
誘うように 謳っている
六十二年前の
八月九日の朝も咲いていた
人間の営みを信じて
山間の土に ひっそり咲いて
村の人たちに
思い出を重ねていた
永久に続くと思われていた平和が
一瞬のうちに幕を閉じた
たった二個の原子爆弾のために
行きとし生きるすべてのものたちの
終焉が訪れようとは
信じられないが
これはごまかしのない 事実だ
あれから
月日は流れ
昔と替わらない 田園風景の中に
百日紅が 色を添えている
人間の 思いやりを
ひたすら 信じて
三度 あのような 悲惨な 出来事が
この町には 起こらないことを 願いながら
だから 淡い あわい 桃色に 染まっている
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