こわいはなし/吉田ぐんじょう
 
てしまう

一度など
ゴミ捨て場に捨ててあるビニル袋が
力なく横たわる無数の好きな人に見えた

あるいは
コンビニの陳列棚に
小さい好きな人がぎっしり詰まって
にこにこ笑っていたこともある

このごろのわたしときたら
外出もせず
部屋で背を丸めて正座をしている
それでも
自分自身が
だんだん好きな人になってゆくのを
どうしても止めることができないでいるのだ

なんという体たらくだろう

好きな人が遠ければ遠いほど
わたしがどんどんいなくなってゆく



心臓がない人と出会った
その人は青白い顔で
体もこころも冷たいままで
それでもずいぶん元気そうだった

そうして
自分がどうやって生きているのか
全然わからないんだよ
と笑っていた

その人は指先を切っても
血が出ないらしい
ただし無闇にのどが渇く
と言いながら
途方もない量の水を飲んでいた

ようく見てみると解るのだが
その人の体は少し透けている


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