こわいはなし/吉田ぐんじょう
 


家を出ると
道端に
無数の舌が落ちていた

赤信号が
誰ひとり停められなくて
途方に暮れているような真夜中だった

舌たちは
うすべにいろの花のように
可愛らしく揺れながら
あたりの夜を
すっかり舐めとってしまう
すると朝がくるのである

そうやって夜が明けることを
二十三年間生きてきて
初めて知った

舌たちは明け方の光を浴びると
しゅるしゅるしゅると消えてしまう

ジョギングをしているおじさんが
呆然としているわたしにおはようと言う



恋というものは大変おそろしいと思う
どこへ行ってもそこにある全てが
好きな人に見えてし
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