日付を打たない手紙/藤丘 香子
 
かたちあるものは呼びあい
真実と錯覚の対岸を往来する
越えていく夜を確かめて
遠くに在るものと
失われたものの静けさを含みながら
わたしたちは、ふたたび であうために

ほどかれた耳は青く突き抜けて
つばさをたたむ絹雲はやさしくする

海に向かうあなたよ
そうして わたしも波を泳いで
ときどき甘く
とぎれとぎれに息をして

いま、世界を隔ててはいないから
わたしたちは何もおそれなくてもいい

呼吸は波うち際へ運ばれて
みどりに縁取られ
からだごと濡れて
やわらかくなった、わたしたちは

打ち鳴らす音楽に耳をあずけ
渇いた言葉を遥かにして
しんと澄んで見送っていよう

掴もうとする先から光がすり抜けたとしても
このまま沁みこんでいくといい




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