透明/月見里司
寒気を感じるほどのあつさが続いている
語られざる
おおぜいの屍がたてる衣擦れの音は
長い間やみそうに無いのだった
窓の外も中も
もう屍でいっぱいだった
ことに気づかない振りを決め込んだ周りの人々が
とても正しく見える
かれらは会社へ行く
ゆいいつ横断歩道をよこぎる車が
また窓を閉じ
スピードを上げる
手向けられつづける無数の花
季節のバランスはとてもわるい
雨が降らない
ずっと怯えている
明けることがなくなった梅雨と
たいてい怯えることに怯えている
夏の花が咲くのが怖くて
庭が見られない七月は
やってくる台風がべちゃりと音を立て
庭以外にはとっくに九月
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