幕の向こう /服部 剛
明るく前を向いて
「365歩のマーチ」を皆と歌い
両手を振って明日へと歩む
「あるべき姿のわたし」
の下を
「ふぬけたわたし」の亡骸が
独りうつむいたまま
低空飛行している
( 偽りでもなく
( 亡骸でもない
( ほんとうのわたしは
( 一体どこに
少し気をゆるすと
心の隙間から
吹き昇る灰煙
見上げた空に
低く垂れ込める曇り空の
重圧を背に歩いている
( 道の向こうから
( 鼻唄歌う若い母に押され
( ベビーカーから顔を出す幼児
( 豆の手で縁(ふち)に掴まり
( 目に映る世界に
( 瞳を見開いて
( 傍らを通りすぎる
わたしは只(ただ)
目の前をモノクロームに覆う
見えない幕を
この両手で
引き破りたい
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