風呂敷女/白寿
った一株蘇って、
それがいつだって啜り泣いているあの路地裏を
もうすぐひとりの女が駆け抜けて行くことでしょう。
貴方様、もしそれと思しき女とすれ違っても、
どうか顔を伏せていてやってくださいましね。
間違っても声などかけないでいてやってください。
地べたで無数にのた打っている
恨みや嫉みやなんかを踏みちゃちゃこにして、
脇目も振らず奔り抜けたとしても
きっと逃げ切れないことを、その女は知っています。
これまでだって、不仕合わせに出遭う度、
いつだって結末はそうでしたから。
轍に蹴躓いて、汚らしい泥の中へ
身を投じるよりほかに手立てはないのです。
それでも女は疾走らずにはいられないものなのです。
そうして今度もきっと、
少しずつ少しずつ奈落へ沈んでいくのでしょう。
けれど、奈落を抜けたその先には伽藍堂があって、
その伽藍堂だけが、人間の痛みを握りつぶしてくれる
唯一の慰みだということも、その女は知っています。
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