夏ものがたり/未有花
セミの声を追いかけて
見知らぬ森ん中
麦藁帽子のつば先は
南の方を指していた
虫かごん中はからっぽで
虫取り網を空高く
どんどん奥へと進んで行った
四方八方セミの声
どっちへ進めばいいのやら
森は果てしなく深く
太陽はどこかへ行ってしまった
おなかん中はからっぽで
重い足取り引きずって
ついたところは広野原
セミはどこかへ消えちゃって
空にはチカチカお星さま
遠くに見えるは小さな明かり
広野原を横切って
心ん中もからっぽに
明かりの方へ進み行く
明かりは一体何だろう
セミのおかげでこのざまだ
明かりは迎えのランプの光
母さん何にも言わないで
急ぎ足で家路に向かう
何もかもがからっぽで
いつの間にか夢ん中
最後の夏のことだった
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