デュムーシェル博士の肖像。/クスリ。
 
遠くの空、高い雲を動かす風の右に、海の響きが聞こえた。

欅樹の影に在る僕の午後の残像は、仰向けに気持ちの良い空と対峙して、寄せ返す時間を呼吸する。

およそ百億の中のふたつに似る既視感に捕らわれたこんな午後に、「おまえはマルセル=デュシャンの襤褸襤褸の物語性の象徴たるロボットだ。」、と、デュムーシェル博士は僕に教えたのだ。

二十世紀初頭という過去に於いて過去芸術を否定し意味を拒絶したダダイストの、今では悲しい物語性に博士は捕らわれていたのかもしれないし、あるいは老人性痴呆の意識の混濁がなせるただの戯言かもしれなかったが、その午後の手触りは僕を過去を意識する奇妙な過去へ時折、導く。
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