夏の夢/まんぼう
 
大王イカに噛み付いている
地上では銀色の雨が降り、黒い小石を濡らす
丸く刈り込まれた茶畑は 小さな闇を抱え、日差しを照り返す
欲望は愛おしまれ、 胎児の姿勢で青空を抱きしめる。

打ち捨てられた陶器の小瓶は裏の樵道で父が掘り出してきた物。
ビーナスの腕のように謎めいて打ち砕かれている

失はれていた物たちが不意に回帰する。
時間は唐突に裏切られ、
叶わなかった全ての想いが
記憶の中から微笑みかける
なべてよき調和の中で
原始の混沌は傷つけられ
ひぐらしが、耳を聾する

暮れかかる野原でしずかに草を踏む音がする
明るすぎた午後の終わりに
地下水脈の流れる音にのって
あれはウサギが踊る音
うつむきながら
ウサギの柔らかな足裏が
冷たい土を踏みしめる

戻る   Point(2)