さよなら/たもつ
街中を
ウィリアム・テルが走り回っていた
何故ウィリアム・テルと分かったか、というと
それはどう見てもウィリアム・テルだったから
駅前の市営駐輪場に
真っ赤なリンゴがポッツリとあった
きっとウィリアム・テルは
これを探していたにちがいない
「ウィリアム・テルのものなので勝手にもっていかぬこと」
そう書いてリンゴに貼っておいた
さて、アパートに帰りドアを開けると
部屋の中には
ウィリアム・テルの息子がポッツリと座っていた
何故ウィリアム・テルの息子と分かったかというと
それはどう見てもウィリアム・テルの息子だったから
なんてそそっかしいウィリアム・テル!
田舎から送ってきたリンゴがあったので
剥いて二人で食って
その後、ウィリアム・テルを探しに
ウィリアム・テルの息子と街に出た
何故そんなことをしたかというと
ウィリアム・テルの息子は
ウィリアム・テルの息子だったから
そうして、今日も
僕が言うべき「さよなら」が
余計に一つ増える
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