ジャズ・バー/渡 ひろこ
あなたの行きつけのジャズ・バーへ
初めて連れていってもらった
薄暗い店内は煙草の匂いが染みつき
レトロな丸いテーブルと椅子が
老舗といわれる趣を物語っている
店のウエイターがにこやかに挨拶すると
あなたは馴染み客らしく
軽く手をあげて応えた
席に着くとほどなく演奏が始まり
ピアノトリオの軽快なリズムが響きわたる
大人の世界をのぞいたようで
何気ない会話と甘いカクテルだけで
つかの間夢心地だった
勧められるまま何杯か重ねたせいか
アルコールがまわって上気した頬が熱い
ステージではいつの間にか
ゆったりしたピアノソロに代わり
途切れた会話の透き
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