紅茶/doon
 

 一杯の紅茶には 一杯だけの夢があった
 一杯の紅茶ができるまで
 たくさんの人の幸せが在った

 一杯の紅茶には 一杯だけの悲しさがあった
 一杯の紅茶が飲み干されるまで
 悲しさが逝く場所はなかった

 出来るまでをめぐらせて、逝く先を思うと
 一杯の紅茶に秘めた情愛は
 決して一杯だとは言えなかった
 太陽に透かして
 紅茶の色を一際楽しんだ

 トーストが待っている 時間も待っている

 私は包み込むようにその液体を滑り込ませた
 スッと溶けていくひとつの香りに
 私は水以上の付加価値のついた
 紅茶という存在に
 舌鼓を打ち続けるだろう

 わずかに残った紅茶の名残が
 どうしても飲まれず、捨てられていく
 飲み干された紅茶が残した
 一滴の悲しさ
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