少女の願い/なかがわひろか
 


少女の周りはとても静かになった
少女は毎日影と遊んだ

周りの喧噪がなくなって
少女はやっと
影が大きくなっていることに気がついた

どうしたの
あなたはどうしてそんなにまで
大きくなってしまったの

影は優しい声で答える
君が大人になる代わりに
僕が君の分まで大きくなったのさ

影は少女とずっと子どものままでいたかったけれど
少女の願いを叶えるために
自分だけが大人になる道を選んだ

そんな影を見て
少女は言った

私、大人は嫌いよ

そう言って少女は
影を足から切り離し
ずっと遠くへと
かけていった

いつの間にか年を取りすぎていた影は
少女を追いかけることもできずに
ずっとずっと地面に
張り付いたままだった

(「少女の願い」)

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