タクシ/辻野克己
 
あたたかいタクシでした
ぼくはうしろのざせきで
よこになっていました

おねえちゃんはとなり
まえのざさきにはお母さんです
お父さんはいません

なぜかお母さんは
ぼくたちに話したことのない
むかしの話をタクシのおじさんとします

おねえちゃんはキライだと言っていた
タバコをくわえてなんだかへんなかんじで
「かっこいいでしょう?」なんて言って
ぼくを見おろします

ぼくはタクシのおじさんは
あたまのいい人に見えました

ぼくはお母さんの話がちょっとはずかしかったです
お母さんはむかしプロレスラだったそうです

あとはよくおぼえていません
あったかくて
いつまでもこうやって
ねむっていたいなあと思いました

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