影で切りつける/カンチェルスキス
た。
傘の骨が一本突き出ていた。
老婆は気にしなかった。
ラクダみたいにけだるい
細長いバッグを
肘のところでひっかけていた。
信号が変わると
車にあおられながらも
ゆっくり渡っていった。
俺は交差点を渡るのを
やめ
国道沿いを
歩いていった。
何かしなければならない
ものを抱えて
人びとが車を飛ばしていた。
みんなうまくいってなかった。
解放されたいか
もっとひどく打ちのめされたいと
考えていた。
俺はどちらでもなかった。
こどもの頃から
口に含んだ氷は
溶けた。
口に含まない氷は
溶けた。
俺の影が
激しくアスファルトを切りつける。
空気は澱んだままだ。
背中から燃えはじめろ。
それから俺は
歩道に薄くたまった砂を
踏みにじり
まわりの音が聞こえなくなるまで
歩き続けた。
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