有棘鉄線を抜け、宵に至る。/クスリ。
 
呟く巡り巡る客体化された目線が幾重にも、連なる曖昧の増殖。

義手を辿る。
有棘鉄線を叩く。
鉄錆を纏う。

脈動を探る。
赤錆を吸う。
曖昧を巡る。


夢見る頃を過ぎても、まだ夢を見たいのならば、血の涙を流さなければなりません。

古い戯曲の一節に踊る夜の老人の右手を見る。

赤錆に濡れたそれは、今では静かだ。


蚊取り線香の白煙に朧気な老人の背中は細く、うなだれた華奢な首に尚まだ血を吸う蚊が腹を膨らませている。


老人の首を、折る。

同時に潰れた蚊の血に、少し満足する。

曖昧を、尚、歩く。


有棘鉄線を抜け、宵に至る。


、と、呟く。



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