茫然の櫃/黒川排除 (oldsoup)
 
だという
廃墟!
それはまぎれもなく廃墟
確かな人の気配を感じた時にも
ついに誰一人としてその影を認めることはなかった
誰もが黙っている訳ではなく
誰もが言っていないだけなのだ
誰もが言ってないと信じるならばこの気持ち悪さは何なのだ
恍惚然としてあたりを見渡しても
もはやいかりを下ろす場所はどこにも無い
抜け出してしまったが最後
割れた試験管を囲う塀
使われた食器
今にも付きそうな電球
それらを懐古することは許されていない
広すぎる野原に
哀れむべき人も見つけられず
かつて語ったことのある空想や妄想になぞらえた伝説の切れ端を書き込んだ古い書物の埃が差し込む光に踊る
古書販売店で
品物にこっそりとしおりを挟んでいる
誰にも見つからないように
誰にも思い出せない
やさしいあの人は今
どこで何をしているだろう
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