忌々しきは恋の凶事/錯春
 
勿体無いほどの緑の黒髪であったのに、切るのに如何程の理由があると言うのです。」

 「あら、忘れてましたの?呆れたこと。私の試験が終わったら、暮れた頃に境内で逢いましょうと仰ったのは貴方ではありませんか。」
 
 彼女は僕に纏わりつくヒカリゴケを掻き分けると、僕の手をとり立ち上がらせた


 似合いませんこと?短いのもきっと映えると、貴方が仰ったのよ。


 彼女の手は変わらず細く、魚の骨のように繊細で冷たかった
 よくよく見ると、爪が桜貝へと変化しているではないか 
 境内の奥、賽銭箱の辺りに 碧く発光する巨大なオニヤンマの羽が落ちているのに気付く
 だがそんなことは関係ないのだ 何もかも
 ヒカリゴケが鬱陶しいほどにビカビカと光っている 
 僕は彼女を抱き寄せて言うのだ

 「ああ、お似合いですとも。とてもとても見惚れてしまう。」

 

 すべては恋愛という凶事の所為である。







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