無題/hon
 
俺には死ぬということは正直ピンとこない。ある者が死ねばそいつは俺の前から消えていなくなる。それだけのことだった。
俺は流れていくジグを眺めていたが、やがてそれは視界から消えた。


それから家畜小屋に行って、羊や牛たちを放した。家畜たちはあるものはすぐに遠ざかり、あるものは小屋の付近でぐずぐずしていた。
彼らは一時の自由を満喫した後、ほどなく苦痛の多い死を迎えるだろう。運がよければ、よその牧童に拾われることもあるかも知れないが。岩多き山々も暗く深い森も、彼らの生存には過酷すぎるのである。
といって、逃がさなければ、小屋の中で飢餓による陰惨な死を迎えるだけだ。そいつもつまらない。
結局のところ家畜には家畜の生しかないのだということを、俺は知っている。
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