無題/hon
そもそも俺は俺がどこから来たのか知らない。
湿った落ち葉に覆われたつるつると滑る斜面を、両手で這い登っていたのが最初の記憶だ。
それから茫漠としてよく憶えていないが、苦労して長い道のりを上ったり下りたりしながら、すいぶん進んでいったと思う。
やがて荒涼とした岩場の道を一人の男がやってきた。俺はそこで初めて人間というものを見たが、また同時にそこで初めて人間を殺した。
堅い石を左手に持って勢いよく殴りつけると、ただ一撃で男は倒れて動かなくなった。俺はその人間を生のまま食った。岩場の陰に体を引きずって、窪みに肉を横たえた。火のおこし方など知らなかった。本能の赴くまま獣のようにむしゃぶりついて食っ
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