その海から(51〜60)/たもつ
らいのものを乗せて
走っていく
どこまでも溢れそうな
海岸通り
静かに
海戦が始まっている
57
古くからの友人が
おぼつかない言葉を使って
雑誌をめくっている
耳の穴から
鮮やかな山ぶどうが生えている
声をかけようとして
もう誰もいないかもしれなかった
58
共通の話題の中を
一羽の鳥が飛ぶ
くちばしや羽毛の様態
速度の美しさ
などについて語った
ただあの日
あなたはそれを見守り
僕は見捨てたのだった
59
羅列から
滲んでいる
湿った粘土
のような
午後の塊
男も女も
うねり
自分の陰毛に
むせんだ
60
鳴く電灯があったので
となりに
鳴かない電灯を置いた
テーブルは墓石のように
きれいに磨かれていた
ほぐれていくね
握った手を開くと指は
どこまでも伸びていかなくて
ヒツジみたいに
あなたを愛した
お伽噺は
いつもそこで終わっている
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