その海から(51〜60)/たもつ
 

51

手に速度が馴染む
坂道は距離のように続き
俯瞰する
鶏頭に良く似た形の湾に
昨晩からの雪が落ちている
ポケットに手をつっこめば
速度はあふれ出し
また新たな速度が生成される
少しの背伸びをする
白いソックスの真新しさ
言葉は誰をも裏切らない
裏切るのはいつも意味だ



52

難破船に良く似た背格好で
女の頭は枕の上にあった

すぐ側まで夕暮れは押し寄せ
女は何も言わない人のように
沈黙の中にいた

僕は近くの駅から快速列車に乗る
窓の外、触れないものがある
すべて景色だった



53

中村さんちのご近所で

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