放熱/松本 卓也
ただ立ち尽くしているだけで
汗が噴き出してくる夕暮れ
唐突に思い出した笑顔 声 温もり 涙
何となく確信した事が一つだけあった
きっともう君はこの世に存在しない
幾月幾年と囚われていた
幻想の中美化していた姿形
振り返ればもしかしたらと願いつつ
気がつけば居るのではと思いつつ
少しずつ忘れていく最中でたどり着いた
想像を積み上げていく内に
いつの間にか君の背には羽が生えていた
きっと見ず知らずの腕に抱かれた幸福の中で
僕は嘲笑われているのだろうと
脳の隅にこびり付いた影に
手を伸ばせば届くだろうと
根拠も無く信じ込んでいた
濁流のような汗と身を焼く
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