ノート(夜へ ひとり)/木立 悟
 




空に埋もれた巨きな鳥を
指でたたいて確かめる音
少し傾いだ雨になる


片足を尾のように動かして
屋根の音を追っている
何もない日の生きものの笛


水のなかで抱く膝に
いつのまにか花が咲き
魚になり火になり泳ぎ去る


見る間に鳥になる左目を
左手で摘み取り元に戻せば
空は変わらず蒼くゆらめく


燃える舟を風が運ぶ
くすぶるかけらを魚たちが追う
海には光が落ちつづける


横たわるけだもののすぐそばを
唱い舞いながらすぎる人々
気まぐれな尾を標と消えてゆく


はざまを行き来するものたちに
手わたせるものは多くない
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