心音/しゅう
 
へそにあけたピアス穴は、梅雨が開けるころには閉じていたんだよね


彼女は制服の下でハリを落としながら
鼓動を確かめていた
くるぶしを雨にひたして
たまらなく冷え切った、梅雨の朝だった

彼女は向かいの停留所を眺めていた
やがてバスが来て、溺れるように走っていく
濡れた膝を抱えて
すみれ色のくちびるが、かすかにふるえた

彼女はスカートのすそに、大きくマルをつけた
雨音と、エンジンと、鼓動
折り目正しいひだから、ぽたりと音が水溜まりになった


一瞬の不協和音になって
ガラスをかきむしる
せかいが
三拍子でも四拍子でもない
素敵なマルを塗り替えていく
はじめての暴力を
彼女は水溜まりにふるう
雨音でもエンジンでもない
ここにはない
鼓動を

彼女は制服の下でハリを振り切らせていく
欲した鼓動を、遠くに聞いた気がした
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