えいえんの夏/吉田ぐんじょう
しろくなく
遠くからサイレンの音がした
ぴかぴか光っていたのは
ランドセルだけだった
わたしは貧しい子供のように
膝を抱えて
夕立を見ているうちに
いつの間にか
ねむったみたいだ
翌日にちゃんと九月がきた
だが翌日は九月二日だった
昨日より大分くすんだランドセルをしょって
登校したら
九月をきちんと始めたともだちたちが
昨日なんでこなかったの
と机に座って笑ってた
以来
八月三十二日を過ごしたことはない
夏が終わらなければいいと思うたび
八月に閉じ込められて
膝を抱える自分の姿が見える
枯れてなお支柱に取り縋る朝顔のように
力無くくったりと横たわる自分の姿が
それは
大変ぞっとする光景である
夏は夏のままで
終わるのがいい
それがいっとう美しいと思う
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