淋しい馬/石瀬琳々
それは朝陽を煌々と浴びる
蜜のような栗毛だったろうか
それとも夜のように流れる黒いたてがみ
そんな事は重要ではないのかも知れない
長いまつげを震わせる一頭の馬が
街角をひっそり駆けてゆく
人気のない真昼の路地を
朝まだきの湿った草原を
黄昏にひしめく交差点のただなかを
ふとした拍子に馬は立ち止まり私をじっと見る
そのやさしい眼差しに手を差しのべたくなるのだ
鼻づらをそっと撫でながら
豊かなたてがみに頬を寄せて
このままずっと二人きり寄りそって
すべてを忘れて眠ってしまいたくなるのだ
けれど馬はまた走り続ける
何ごともなかったかのようにただひたすら
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