白桃/umineko
微妙にそこはかとなくいやらしい。まあそれはさておき。
果物ナイフは次の一手に移っている。縦切りの、ウサギちゃんりんごでも作るかのごとく、すっと果肉に切り込みが走っていく。だがそのままでは中央の種があってどうにもならないので、わたしは次の一手を何度か繰り返すことになる。
わたしがいちばん好きなのは、夜明けのグラデーションのような、白桃の断面だ。無粋な圧力で変色していない、ただ切り立って毅然とした壁。
いくつかの切片で本体から分離された桃をそのまま、ナイフで口に運ぶ。桃にかぶりつくのは、あれはナンセンス。鋭利な金属で無理矢理に引き裂かれた繊維、そのやるせなさがいじらしい。わたしはシンクをぼたぼたと濡らしながら、一心不乱の昆虫のようにその物体にのめり込む。切り立った断面を容赦なく口に押し入れる。音もなくつぶれ、ちぎれ、瑞々しい果液の甘さ、逃してなるものか。
欲しいと思ったものが今わたしの中にある。それは一瞬で終わっていく。
そんなふうに愛したことがあった。
そんなふうに。
戻る 編 削 Point(3)