雲。/もののあはれ
 
きてきたのですが
いざ外へ出ようとしたら上からアスファルトを張られてしまったようで
どうやら日の目を見る事が出来なくなりましたと返事があった
僕に力があるのならこんなアスファルト剥がしてあげたいのですが
両手には僕を守るだけの力しかないので
どうしてあげることも出来ませんと告げると
はい分かっています
あなたも私も同じ境遇ですからどうぞ先を急いで下さいと返事があった
僕は夏空に響く蝉の声にみっともない臆病さを潜ませながら
試練でも背負い込んだ顔をして先を急いだ

僕は今日も僕にとって大切なものから簡単に目を逸らしてしまうくせに
それでも大切なものを探すことで精一杯の顔をして先を急いでいる
大切なものはいつもきっと過去でも未来でもなくここにあるというのに


でもそれでもいいんだと思うことにする
立ち止まって空を見上げてみれば
雲はどこまでも自由にゆるやかに
果てしなく流れゆくことをまだ忘れてはいないから





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