彼の地 天草にて/渡 ひろこ
 
あなたが見せたかったという
教会は
天草のひっそりした漁村に
静かに建っていた


教科書でしか知らない
隠れキリシタンの弾圧が
この地であったというのか


何ごともなかったかのように
小さな漁港に面して
鄙(ひな)びた瓦屋根の間から
洋館の塔の十字架が
水無月の空をさす


背後にかまえる神社は
この里の厳しい
忍従の痕跡だろうか
その神社への石段は
今はチャペルの鐘をかかげる
小高い展望台へとつづいている


三百四十段あるという
急な石段を
すでに息のあがった私は
あなたにぶら下がるように
手をひかれながら
一歩づつ登る
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