アリバイ写真/悠詩
きみが送ってくれた写真集に
きみを探した
夏の祭囃子のなかに
霧のかかった銀嶺に
深い翡翠の珊瑚礁に
悲鳴の上がる戦場に
闇の群がる爆心地に
きみの姿はどこにもなかった
あってはならなかった
被写体に最も近い傍観思念として
彼らに溶け込んでいなければならなかった
時に喜ばれ
時に笑われ
時に睨まれ
時に殴られ
時に蔑まれた
そのレンズが捉えたのは
決して虚像ではい
きみそのもの
村人の掛け声
雪のささやき
大海洋の呼吸
灼熱の地雷原
死者の呼び声
時空を経てつながるきみのアリバイ
時空を経てつながる歴史のアリバイ
最後のページに置かれた
わたしたちの集合写真
きみの姿はどこにもなかった
きみの瞳は思い出せない
わたしが見ていたのはいつもレンズだった
きみがわたしのなかにいたことを
知った
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