ウサギの部屋にて/山本 聖
そもそも
言葉というものが先にあったのか
ひとが自らを自動書記に設定したがために
言語というものが存在を始めたのか
そのようなことを考えているうちに部屋が一面ウサギの毛に覆われた
ふんわりと耳たぶに生えたようなのと同じ柔らかさの
カビのような白に曇天色のぶちが入ったウサギの毛は
室内にあまりに心地よい湿気をもたらし
私は危うく言葉を囁いてしまいそうだ
部屋の成長に意味を与えてしまいそうだ
壁一面
天井床窓扉電灯机なにもかもすべて
ふんわりに覆い尽くされて
黄金虫が舞い降りる
顔を撫でてはにやりとほくそ笑みあい
獣くさい空気を呑む秘密の乾杯
ぽつりぽつ
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