夏列車/銀猫
 
真夏の陽炎の向こうから
短い編成の列車はやって来る

そのいっぱいに開かれた窓から
ショートカットの後ろ姿が見える

列車の外から
車両の様子は
ありありと伺えて
制服の脇に置かれた紺のかばんや
朔太郎の詩集をめくる音さえ
微かに耳に届く

(泣いている)

幼さを残す肩が
今、わずかに震えた

想う人と
詩篇の文字とが
絡まり合ったのだろうか


   *


真夏の陽炎の向こうから
短い編成の列車はやって来る

そのいっぱいに開かれた窓から
色褪せたグリーンの座席に
ぽつんと座りながら
くす、と笑みをこらえて
手にした筒井康隆の
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