てんぷら/月音
あなたの好物を作ろうと
夕暮れ
サンダルを引っ掛けて買い物にでる
昨夜の 些細ないさかいの 償いに
海老の殻を
無心でむけば
いとおしさに変わるような気がして
という
無邪気な打算
魚屋さんの奥に入ると
冷蔵ケースの向こう
車椅子のお年寄り
と
それを押すおばあさんが見えた
「今晩は さわらでも焼きましょうかねぇ」
あぁ うぅ と
言葉にならない返事をして おじいさんは微笑む
帰り道
あんばいの悪いことに 雨
ぱたぱたと家路を急ぎながら
想像して しまった
肩についた水滴をはらいなが
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