モラトリウム/木屋 亞万
 
ビニール傘を連れてバスに乗る
車たちはいつもより低いところ
色も形も残らない淡い流れ

信号の度に苦しそうな馬力
ため息つくバス停
鼻づまりアナウンス

ポケットを探ると298円3セント
終点まで320円かかるから
19セント足りない

終点2つ手前から歩く
バスの排気は天まで昇る
途中で見えない

火照る空気は準備中
ビニール傘は待機中
真昼の太陽は故障中

自分のいる町が嫌い

違うだろう
町にいる自分が嫌いなのだ

どこに行こうが
自分は変わらないかもしれない
終点まで走っても
自分は変わらないかもしれない

小銭はポケットで入り乱れる
でも18円3セントは変わらない
やはり19セント足りなかった

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