燃えないティッシュ/楠木理沙
 
分別も面倒だしね だってそんなの本人だってわかんないのもあるじゃない 

相変わらずの君の話も 今日はいつものように笑えなかった

いつまでも燃えずに残ってるティッシュも多いみたいだけどね
自嘲気味に言った君に 僕は頷くことしか出来なかった



すっかり子どもっぽくなった君が
今日は本当にありがとう
彼氏がこんな感じなら彼女になる子は幸せだろうなあ
と言ったから 
そうだねと口だけを動かして答えた

壁に掛けられている数字だけが刻まれた時計を見た
もうすぐ12時
視線を戻した先には何も言わずに僕を見つめる君がいた
不意に音量を上げた秒針と心臓の鼓動が重なった瞬間
僕は鞄を握り締めて立ち上がっていた
終電になっちゃったなあ



点滅を繰り返す電灯の下を歩いていると
悔しさとやりきれなさと情けなさが湧き上がってきて
よれよれのポケットティッシュを取り出して思い切り鼻をかんだ

僕は一人ぐちゃぐちゃになったティッシュをぼんやりと見つめて
一体どこに捨てようかと真剣に考え込んでしまった

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